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ゆきはな店主のブログです
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ある若い蜂の日記

蜂の暮らしは、大人になったばかりの人間のものによく似ている。

第一日目、働き手になる準備は整ったというものの、まだほとんどスキルがない。
そこで最初の仕事は、今出て来たばかりの育房の掃除だ。
そのあと半日程、ほかの巣房の掃除という単純な仕事につく。
残りの時間は、食事、休憩、そしてもっとやりがいのある仕事探しに費やされる。

四日目あたりで、やっと仕事がみつかる。子供の世話だ。
口からローヤルゼリーをベビーベッドに吐き出して、蜂児を育てる。建設事業の才のある仲間は
蜂ろうを使った新しい巣居たの建設にとりかかりだす。
女王のお付きとして召し抱えられたものも何匹かいる。これは女王に食事を運び、排泄物を巣の外に捨てる光栄な仕事だ。




十日目ぐらいになると、事態は一気に進む。
ひからびた外勤蜂(採餌蜂)が身体を震わせ、脚をひきつけながら駆け込んで来て「受取人が必要なの!」と叫ぶ。
「クローバーの花蜜がほとばしっているところを見つけたんだけど、荷渡し出来る人が足りない!」。
採餌蜂は自分で花蜜を貯蔵することはしない。花蜜の採集に大至急戻れるように、巣の中に居る蜂を探して荷渡しする。
「わたしにも出来そうだわ」と若い蜂は思う。まだ内勤蜂であることに変わりはしないが、単純な掃除とやんちゃ坊主の世話の世話の日々はもう終わりだ。
若い蜂は、興奮の坩堝と化している巣の入口に急ぐ。そこでは、外勤蜂が広い外界から、ひきもきらずに花粉、花蜜、水を持ち帰って来ている。外勤蜂は巣に降り立ったとたん、身体をうごめかして「誰か受け取って、だれか!」と叫ぶ。若い蜂はその様子を見つめたあと、勇気を奮って花密で体がはち切れそうになっている外勤蜂に近づき、その体に触覚で触れて伝える。
「お姉さん、私にやらせてください」
ホッとした外勤蜂は、丸まった口吻(花蜜を吸い上げるストローのような口)を伸ばして、体内のタンクに納められた花蜜をすべて若い蜂に移す。
若い蜂はよたよたしながら巣の中に戻り、空の巣房を探して、花蜜をいったん中に吐き出したあと、その日一日かけて、口から体内に入れたり戻したりを繰り返す。この過程で、水分を蒸発させながら、花蜜の等分を結晶型のショ糖からシロップ状の果糖に変える酵素を加えるのだ。
水分の量が最初の70%から約40%にまで減ると、仲間とともに翅を震わせて風を送り、欧風料理のソースのように水気を飛ばす。水分量が20%を切ったら、ハチミツのできあがりだ。
蜂蜜を入れた巣房に蜂ろうで封をして、また巣の入口に戻り、次の荷を受け取って来る。



一週間後。若い蜂はまだ貯蜜蜂の役目を楽しんでいるが、巣の入口から目にした外の世界にも興味が湧いて来た。ある日、勇気を奮い立たせて巣の外に身を乗り出し、翅を使って飛ぶ練習をしてみる。
すると自分でも気づかないうちに、体が浮き、空を飛んでいる。
「こんなに簡単なことだったんだ!」
若い蜂は、周囲の情景をスナップ写真のように頭に刻み込んでから、安全な巣の中に戻る。
その後の二、三日間、何度か訓練飛行を繰り返し、その度に遠くまで行きながら、巣箱の目印となるものを記憶に刻み付ける。
そしてその日がやって来る。
時刻は早朝。
ここしばらく大きな動きはなかった。機能は一日中雨が降っていたから、外勤蜂は仕事に出ず、若い蜂とその仲間は、蜂蜜の熟成に専念した。
だから今は何もすることがなく、エネルギーを保存するために休んでいたところだった。
と、突然、一匹の外勤蜂に肩をつかまれて揺り起こされる。
「リンゴの花よ!」
外勤蜂が叫ぶ。
「花蜜がいっせいに流れ出したの!全員ただちに飛行甲板に集合すること!」
「私も?でも、一度も花蜜を集めたことがない」
「だから、今やるのよ!さあ、行って!」

 


こうして若い蜂は興奮みなぎるダンスフロアに急ぐ。
ダンスフロアは巣のすぐ内側にある場所で、戻って来た採餌蜂が尻振りダンスをするところだ。
押し合いへし合いしながら他の見物人といっしょに眺めていると、やった!尻振りダンサーがすぐそばを通り過ぎる。お尻を必死に左右に振って、みんなに新しい発見を知らせようとしている。若い蜂は彼女の姿をしばらく眺める。そして、飛び立つ方向を教えてくれるダンスの角度、どれだけ遠くに飛ぶべきかを知らせるダンスの時間に注意をはらう。
この採餌蜂が宝の山を見つけたことは間違いない。体が水風船のように膨らみ、体中の孔からすばらしいリンゴの香りがにじみ出ているから。
「わかった!」
若い蜂が叫んで、採餌蜂のうしろに出来た数珠つなぎの列に並び、一緒にお尻を振り始める。他にも何匹か列に加わったあと、列は巣箱の入口に進む。
列の前の蜂が飛び立った。
方角は採餌蜂がダンスで教えて太陽に対する角度だ。
若い蜂もすぐあとに続く。頭の中では飛び続ける時間を数えている。
「このあたりのはずなんだけど…なんにもない…ああ、あった!」




白とピンクの炸裂する花火のように、リンゴの木が満開の花を湛えている仲間はもう仕事に取りかかっている。若い蜂は花を選び、花びらに着陸する。花弁の上に描かれた紫外線のラインが花の付け根にある花蜜の井戸を指し示し、そこからたまらない香りが漂って来る。若い蜂はこのラインをたどり、ミルクシェイクにストローを差し込むように、口吻を伸ばして差し入れる。
「あぁ…なんという甘い幸せ」
彼女は「蜜胃」をいっぱいにする。コレは、腹部にある袋で、頭部に組み込まれた油圧ポンプで充満したり空っぽにしたり出来るものだ。でも、蜂は花蜜をすべて消化してしまったりはしない。蜂の社会では「みんなは一人のためにあり、一人はみんなのためにある」。だから、体を押したら花蜜がこぼれだすほどたくさんのリンゴの花蜜を体内に詰め込んだら、若い蜂は過剰積載したヘリコプターのように低空飛行で巣に戻る。入口についたら、待ち受けている貯蜜蜂に蜜胃の内容を絞り出す。相手は一週間前の自分を同じ年頃の意欲満々の後輩だ。すばらしい花蜜がとれる花畑を見つけたときは、すっかり興奮してしまって、花蜜を貯蜜蜂に受け渡したあと、ダンスフロアに突進すると、お尻を振らずにはいられない。案の定、他の蜂が数珠つなぎに繋がり、彼女のダンスにしたがって、一直線に花に向かって飛んで行く。チームで頑張ろう!




こんな風にして三週間が過ぎる。内勤蜂として巣の中で21日間過ごしたように、次の三週間は外勤蜂として餌を集める仕事に費やされる。スキルはぐんぐん上達し、明け方から日暮れまで休みなしに働く。だが、徐々に変化があらわれる。きわめて薄い繊細な翅はどんどん摩耗する。体にガタが来たような気がし始める。内蔵が病気に侵されて行く。ある日、フォールスターの花びらの上にとまった彼女は脚が動かなくなった。飛ぼうとしても翅が開かない。
そのまま、地面に落ちて、彼女の命はつきる。

『ハチはなぜ大量死したのか』著者ローワン・ジェイコブセンより

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ガッツリ地に足着いたPUNK系スピですwww
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徹底的に自由に生きることを目指してます。

可愛い年下夫と可愛い柴犬(♂)と暮らしてます。@さっぽろ

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